研究系及び研究施設の現状 139
久 保 厚(助手)
*)
A -1)専門領域:核磁気共鳴、物理化学
A -2)研究課題:
a) 超広帯域、伝送線 NMR プローブのシミュレーションと製作 b)液晶の高分解能 NMR 法の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 前回報告した結果をJournal Magnetic Resonance誌に投稿した。現在,文章のまずいところを書き直している。文献を 調べて気づいた点は前回の報告で何度も引用した L owe(NMR の大家)の論文の前に UC B erkley の大学院生が学位 論文(unpublished work)で発表していた点である。L oweの論文にはまったく引用されていないがS tokes, C ase, A llion
&W angの論文にはそう書かれている。たとえばpublished workの数は気に掛けるが学位論文の内容そのものは重視 しないという点があるならばそれはその国の価値観や文化に基づいていると考えられる。
b)大学院生西山君の仕事であるが,コレステリック液晶については結局,研究終了せず,ネマティック液晶およびポリ マーの仕事をまとめて学位を無事取得し同時に就職も決まった。最近郵送されてきた別刷りの内容を簡単に紹介す る。ネマティック液晶のスペクトルは静磁場のもとで配向させて測定すると化学シフトのディレクター方向成分に 対応する位置にピークを示す。オーダパラメターを決めて分子の構造を議論するためには,各ピークを等方溶液の スペクトルのピークに対応付け,その差から化学シフトの異方性を求める必要がある。西山君の方法では1回の実 験でそれが可能となった。ネマティック液晶をマジック角からずらした軸のまわりに回転させると,ディレクター が回転軸に垂直な方向をとる状態にすることができる。高速回転によりスペクトルは中心線のみを示しその位置は, シフトの等方値とスケールされた異方性を足し合わせたものになっている。180度パルスを回転に同期して加える ことにより,試料回転によって平均化された異方性を復活させる。ただし時間領域の信号を F T して1軸性粉末パ ターンを観測するかわりに,Hankel変換を行いある異方性の絶対値に対し単一のピークを持つスペクトルを観測し た。2次元の実験を行い,ひとつの軸には液晶スペクトルを他の軸には等方値のスペクトルが出るように表示させ た。ただし異方性は絶対値のみしかわからないのでピークは二つ現れる。等方溶液あるいはマジック角回転スペク トルと比較することにより正しいピークを決め,異方性の符号を決定した。強磁場で生体高分子を配向させ,構造を 決定しようという研究は国外でもA d B axやS . J . Opella等の研究者によって推進されている。ただし,固体に近い状 態では局所的な電場の効果で化学シフトはサイトごとの広がりを持つだろうから,あくまでも液晶状態が必要であ ろう。
B -1) 学術論文
Y. NISHIYAMA, A. KUBO and T. TERAO, “13C NMR Spectral Assignments for Nematic Liquid Crystals by 2D Chemical Shift γ-Encoding NMR,” J. Magn. Reson. 158, 60–64 (2002).
140 研究系及び研究施設の現状 C ) 研究活動の課題と展望
メゾスコピック試料(半径10ナノメータくらいの大きさのリングあるいはチューブ等)では化学シフトが磁場依存することが期 待できる。金属のロッドやナノチューブ等でそのような現象が起きるか実験する。化学の言葉で説明すればリング電流が方 向を反転させることがこの現象の本質である。この意味で有機物たとえばアニュレンを強磁場に入れたとき同じ現象がおき るかは興味深い。ただし600 Tくらいの磁場が必要である。伝送線プローブを組み込んだ極低温NMRプローブを製作する。 低温で使用できる50オームの終端抵抗等を製作する必要がある。
*)2002年 4月 1日京都大学大学院理学研究科助手